呉はし-プロジェクトK

プロジェクトK 実践者たち
プロジェクトKとは?
くれケアベックス(略称=KCV)は「介護と暮しの元気と便利」に関して、モノ作り・ノウハウ作りなどについて様々なプロジェクトを企画し推進します。それらに取り組む人々や企業を応援します。
プロジェクトKとは、それらKCVが具体化をサポートする各種プロジェクトでの関係者・各企業など、その発案者・実践達の開発・経緯の実話です。

呉はし 利き手でなくても、練習なしでもすぐに使える不思議な箸!
「呉はし…原点〜完成」の巻

考案・開発の原点=「箸が使えなくなったAさんの悩み(ニーズ)」

 Aさん(男性73歳)が、ある日突然、脳梗塞を発症して緊急入院しました。…数ヶ月して退院して自宅にもどりました。後遺症で右片麻痺になりました。利き手の右手にかなりの麻痺が残りました。残念なことですが、普通の箸が使えなくなりました。

 そこで、利き手を右から左に換えることになりました。家族が障がい者用の箸をいくつか買ってきました。それらを見せられたとき、長年ずっと普通の(どちらかというと)地味な箸を使ってきたAさんは『…好みに合わない、なじめない。…材質も木じゃないし』と思いました。それらは色が派手すぎたり、デザインも異様に見えたからです。また、それらはプラスチック素材などのピンセット式(たいていはU字形のもの)でした。

 Aさんはそれらを試しに使ってみました。感じたのは『箸とピンセットは似ているようでも使い方などは全く違うものだ』ということでした。練習を始めてAさんは『…気に入らない、しっくりしない。これは箸じゃない。…使い方もぜんぜん違う。これはピンセットか火箸だ』と思いました。

 Aさんは違和感を持ちながらも慣れない左手でがんばって練習しました。しかし、なかなか上達しません。失敗して食材をポロポロ落とすたびに惨めな感じがつのります。それでなくても片麻痺になったショックを受け止めるだけで精一杯のAさんなのです。

 利き手変換のための箸の練習はリハビリとしても重要ですが、それはAさんにとっては苦痛でつらいものになりました。だんだんと箸の練習をするのを嫌がるようになりました。しだいに短気になりました。とうとう「もう、箸は使わん。スプーンでいい!」と怒って言って箸の練習をするのをやめてしまいました。

このAさんの困りごと(ニーズ)がAさんの知人を通じて、くれケアベックス(KCVと略します)の事務局に寄せられました。さっそく、KCV会員企業の何人かが集まって検討を開始しました。

 Aさんの悩みについて、いろいろと考えた結果、「…利き手でなくても、練習なしでも、誰でもすぐに使える」「…ピンセット式ではなく、普通の箸と同様の見た目や使用法や使用感に限りなく近いもの」…そんな従来にない新発想の障がい者用の箸を作ることが、開発のテーマや目標になりました。

KCV事務局:黒川KCV事務局:沖野坂本さん 角さんNHK全国放送番組 「お元気ですか日本列島」で紹介された呉はし試作第一号朝日さん 近貞さん

考案から完成までの過程

●2007年5月

 KCV事務局の呼びかけで「新しい発想の障がい者用の箸」の開発がスタートしました。介護福祉専門家の沖野理事(写真)や会員企業の間で協議を重ね、試作第一号の原案が完成しました。その基本概念は“形状を工夫した箸”と“箸をつなぐ新方式の支点部分”からなるものでした。特許も出願しました。

●2007年6月 

“形状を工夫した箸”の試作を担当する坂本木工の坂本さん(写真)は思いました。『…障がいのある人が使いやすいようにするために、ハシの形状には微妙なカーブがたくさんある。それらをより良く出すには、材料は木目の細かいものでなければダメだ』…そう思って仕事場を見渡すと、ふと、隅に立てかけてある消防団の旧い火掻き棒が目にとまりました(坂本さんは地元で長年、消防団活動をしています)。手にとってみると、それは木目の細かい材質でした。『これだ!』と坂本さんは思いました。それを削って作ったところ、原案どおりの箸ができました。

●2007年7月

“箸をつなぐ新方式の支点部分”については「材料としてこれが使えるのでは」とカド鉄工所の角さん(写真)が素材を持ってきてくださいました。

 できあがった箸と支点部分を、とりあえず接着してみました。結果は上々でした!普通の箸と同じように、しかも、たいていの人は練習しなくても十分使えることがわかりました。予想外に良い使用感でした。これにはKCVのみんなも驚きました!…試作品第一号の完成です。

 たまたま、KCVの活動についてNHKから取材が入りました。試作中の障がい者用箸を見た記者さんが「これは良いですね!」…ということで、箸の試作品第一号を含めてKCVの活動や開発が同時進行しているいくつかの試作品も放送(ローカル)で紹介されることになりました。

 そこで箸に名前が必要になりました。いろいろと考えた結果、“呉はし”という名前になりました。由来は「呉のいろいろな人たちや企業が協力して創りあげて全国に送り出そうとしているものだから」という地元への思いがこめられての命名でした。ちなみに、その後、NHKでは全国放送(写真)でもKCVの諸活動や呉はしのことが紹介されました。

●2007年9月

KCVの仲間で改良点などについて協議を重ねました。支点部分を着脱可能とするなど、いろいろと改良を施した「呉はし試作第二号」の原案が完成しました。

 第二号では箸の試作は朝日食器の朝日さん(写真)が担当しました。朝日さんは工場にあった材料を加工して、いくつかのタイプの箸の試作品を作りました。できあがったそれらを見て「支点部分が取り外せるので、ハシの材質・形状・各部のサイズなどの種類を増やせば、子供から大人まで、たくさんの人が使えるようにできる…カスタムメイドもできるようになる!」とKCVのみんなが思いました。

●2008年1月 

第二号では、支点部分部分としてプラスチックを成型した専用部品が必要でした。しかし、そのころ、KCVの会員企業にはプラスチック成型企業はいませんでした。そこで県の井上様に相談したところ、県内のプラスチック成型企業さん多数に声をかけてくださいました。すると、府中市のユーキ技研の近貞さん(写真)が「うちで作ろう!」と言ってくださいました。

●2008年2月

試作第二号が完成しました!呉エリアにて、子供さんから高齢の方まで、箸を使うのに障がいのある様々な人々にモニターしてもらいました。いろいろな貴重な意見が集まりました。それら意見を集約して試作第二号に修正や調整などを加えました…呉はしの最終完成に向けてのこまごまとした作業が繰り返されました。

 試作品のモニターとしても協力してもらっていたKCV会員企業のケムコ商事の赤城さん(写真)が「うちで展示して販売しますよ」と言ってくれました。これで販売ルートについてもメドがつきました。

●2008年3月 

プラスチック成型による支点部分の形状・サイズなどが最終決定しました。ユーキ技研さんにて、その金型が完成しました。 箸の形状・サイズなども最終決定しました。朝日食器さんにて製作が開始しました。 “特製の専用箸箱(二種類)”も完成しました。 いよいよ“呉はし”の本格的な製造と販売開始に向けての準備が始まりました。

●2008年5月

“呉はし”が遂に完成しました!

…このように、「自分にとって“しっくり”する障がい者用の箸がない〜リハビリするにもいろいろと難儀している」という地域住民Aさんの困りごと(ニーズ)を出発点として、そこから様々な試行錯誤を経て、KCV会員企業や地域のいろいろな人たちが協力して完成させたのが“呉はし”なのです。